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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)1007号 判決 1969年2月21日

原告 大内一

右訴訟代理人弁護士 平田辰雄

同 秋山泰雄

被告 学校法人法政大学

右代表者理事 渡辺佐平

右訴訟代理人弁護士 薬師寺志光

主文

一、原告が被告に対し従業員たる権利を有することを確認する。

二、被告は原告に対し、二、四二六、四〇一円を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、この判決は、第二項の金員中一、〇〇〇、〇〇〇円の限度において、仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立て

(原告)

主文第一ないし第三項同旨の判決と第二項について仮執行の宣言(もっとも、原告は、主文第一項につき訴状において「従業員たる地位」の確認を求めているが、従業員たる義務の確認を求める利益はないから、その真意は従業員たる権利を有することの確認を求める趣旨である。)

≪以下事実省略≫

理由

一、原告は昭和三五年三月一七日大学経理部会計課に臨時雇として採用され、同三八年二月施行の本雇登用試験に合格して同三七年一〇月一日付で遡及して同課雇に任命され、会計事務、次いで、後記山崎事件発覚後は施設部建設課においてその業務に従事していたところ、大学が就業規則二五条九号の定めに基づき、同四一年一月三〇日原告に対し同月三一日限りで解雇する旨の意思表示をしたこと。同号においては、解雇および退職事由の一つとして「その他本学のやむをえない業務上の都合によるとき」を掲げていること。以上の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、本件解雇の意思表示の効力について検討する。

(二) 1、当事者間に争いのない事実と≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認定でき(る。)≪証拠判断省略≫すなわち、大学においては、昭和三七年六月末頃から経理部会計課夜間部窓口係を担当していた山崎六利および上野昭政の授業料等使い込み事件があいついで発覚し、調査、また、両名に対する刑事裁判の結果、山崎は同三四年六月七日頃から同三七年五月二五日までの間に六、七八一、七八〇円位を、上野は同三四年七月一日頃から同三七年四月二〇日までの間に六、五八七、四〇〇円位を着服横領し、両人ともその相当部分を遊興飲食費に充てていたことが判明した。原告は、同三六年初め頃から一年余りの間一ヶ月二、三回程度山崎と右横領金による遊興等を共にし、同人から銀座界隈の高級キャバレー等都内の高級料飲店でしばしば饗応を受けたところ、同人が原告と同年輩の職場の同僚であるため、その大学からの給料ではとうていかような豪遊はできないと感じていたものの、同人の妻の実家は資産家であると学内で噂されており、また、同人は競馬をやり時折上司からも競馬の件で頼まれているのを見聞していたこと、山崎らの担当していた夜間部関係の収納授業料等の保管は可成りずさんであったが、原告は、夜間部においても、同人の担当していた昼間部関係における場合と同様、収納授業料等の保管は厳格に行なわれていると考えていたため、遊興を共にしていた期間を通じ、別段山崎の遊興資金の出所について不審を抱かず、このため、同三七年七月初め上司が山崎事件の調査を開始した際、自発的に山崎から饗応された事実を報告した。

2、被告は、原告は上野の前記遊興についても饗応を受けており、このことも本件解雇の理由の一つである旨主張しているが、被告の全立証によってもこれを認めることはできない。なお、前掲≪証拠省略≫中には、原告は山崎事件のほか後記の小池事件についても小池から饗応を受けていることが判明したため、大学は本件解雇に踏み切った旨の供述部分があるが、右部分は、前掲尋問の結果と弁論の全趣旨に照らすと、たやすく採用することはできない。

(二) 被告主張の本件解雇理由につき認定できる事実は以上のとおりであるところ、前記二五条九号の定めは、本件のような場合、職員の言動が職場規律、秩序維持の点からみて大学の円滑な運営を妨げ、これを解雇することが社会通念上首肯される場合を意味していると解すべきであるから、以上認定のような原告の行為が右場合にあたるかどうかについて考える。

前記認定によると、原告の示した態度、行動は、被告の主張するように積極的ではないとしても、結果的には消極的にしろ山崎の横領行為を助長する一因となったうらみがあり、当時原告は大学に就職後一年足らずで身分も臨時雇であったとはいえ、同三二年三月大学経済学部経済学科を卒業し、すでに二、三の会社に就職していた(この点当事者間に争いがない。)から、かような学歴、職歴からみても、山崎の遊興資金の出所についてなんら不審を抱くことなく、慢然同人と行を共にしてその饗応にあづかったことは、軽率のそしりを免れないというべきである。

ところで、≪証拠省略≫によると、山崎は同三七年中に起訴され、同人の事件に関する大学側の帳簿類等の調査も同三八年一月頃までに完了し、原告を含む遊興同調者らとの遊興の明細も警察における捜査段階で作られており、原告自身も前述したように饗応を受けた事実を上司に報告していたが、大学は、山崎事件につき、同三七年一二月経理部長および経理課長を監督責任により懲戒処分したものの、その際原告の処分等は取り上げなかったこと。大学では、同四〇年五月小池会計課職員の同三六年頃から同四〇年にかけての約二、〇〇〇万円に達する横領事件がまたもや発覚し、同人を初め関係者全員に対する処分は同四〇年七月中に行なわれたが、たび重なる不祥事件の発生を契機として、大学理事者に対する非難、攻撃、会計不正事件関係者の処分の要望が大学の内外から高まったため、理事者側は、同年七月一五日山崎事件発覚から三年振りに、初めて原告に対して山崎との遊興関係の詳細な調査を行なったうえ、同年八月一〇日原告に対して一ヶ月以内に依願退職の手続を取るよう求めたところ、同人がこれに応じなかったため、山崎らに対する前記裁判が同年一二月二七日の言渡により一段落した結果、その一ヶ月後に本件解雇に及んだこと。以上の事実が認定でき、他にこれを左右すべき証拠はない。

以上の諸事実を考え合わせると、原告が軽率にも身分不相応な前記遊興に同調したことが、職場規律の面からみて大学の円滑な運営に好ましからざる影響を与えたことは否定できないとしても、大学においては、原告が山崎事件関係者であることを同三七年七、八月頃すでに承知しており、同三八年一月頃までには同事件についての帳簿類の調査も完了していたから、おそくとも当時頃までには、原告の同事件に対する関与の程度を調査してこれが処遇を決定することは容易にできたにもかかわらず、同人に対し調査すら行なうことなく、単に施設部に配置換えしただけにとどめ、同事件発覚から三年後の小池事件発覚までなんらの措置に出なかったこと、かような大学側の態度からすると、大学は、従来、原告の前記行動をもって解雇はもとより退職勧告すら相当とするに足る職場規律の違反とは目していなかったといわざるをえず、そうだとすると、小池事件の発生により原告を不問に付したままにすることができなくなった大学側の事情を考慮しても、原告の前記行動は、前述した「解雇することが社会通念上首肯される場合」にあたるとは解せられない。

かくして、原告は前記就業規則の定めにあたる行為をしていないから、これに該当する行為があることを理由とする解雇は、解雇の理由がないのに解雇したものであり、解雇は大学の恣意に基づくものというのほかなく、しかも前述したような事情からすると、解雇は苛酷に過ぎるともいえるから、本件解雇の意思表示は無効と解すべきである。

三、以上により、原告は大学の従業員としての権利を依然有しているところ、大学はこれを争っているから、これが確認を求める利益があり、原告の右権利の確認を求める請求は理由がある。

四、大学が解雇を理由として原告の同四一年二月一日以降の就労を拒否していることは当事者間に争いがないところ、原告の右就労不能は、労務給付の債権者たる大学の責に帰すべき事由によるものというべきであるから、その債務者たる原告は反対給付たる賃金の支払を受ける権利を有している。そして、原告が引き続いて大学に勤務している場合、解雇の翌日たる前記日時から同四三年一〇月までの間の毎月定まったおよび臨時の賃金額の内訳が、原告主張どおり(請求原因第三項関係)であることは当事者間に争いがなく、右額を基礎として前記期間の賃金を計算すると、原告の本訴請求にかかる二、四二六、四〇一円となるから、被告は原告に対し右賃金を支払うべきであり、原告のこれが請求も理由がある。

よって、原告の本訴請求はすべて認容することとし、民訴法八九条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮崎啓一)

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